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Tony Higa Airshows

リノエアレースとは

3次元空間でのデッドヒート
 

トニー比嘉が2003年から参戦を続けているリノ・エアレースは、毎年9月にアメリカ、ネバダ州リノ市にて開催されています。

 

飛行機でのレースというと日本では馴染みが薄いかもしれませんが、アメリカでは1920年代から行われてきた伝統的なスタイルのレースだと言えます。そしてこのリノ・エアレースは1964年から40年以上の歴史を重ねてきており、単一のシリーズとしては航空史上最も長い歴史を持つ伝統のビッグイベントです。

 

会場となるのはリノ市郊外にあるステッド飛行場。会期中はこの飛行場全体と周辺の砂漠が巨大な空のサーキットとなります。滑走路に隣接して建てられたグランドスタンドからコース全体を見渡すことができ、「地上の」サーキットレースと同様にレースを観戦することができるのです。

グランドスタンドに座り、滑走路の向こうにひろがる砂漠を見渡すと、点々と電柱のようなものが立っているのが見えます。この電柱はパイロンと呼ばれ、高さは約15m。このパイロンで空中に示されたコースに沿ってレースが繰り広げられるのです。レースの最も重要な基本ルールに「パイロンをインカットしたり、パイロン頂部よりも低く飛んだりしてはならない」という安全規定があります。しかし、できるだけコースをタイトに攻め、効率よいラインをとって周回するというサーキットの鉄則は「地上」でも「空中」でも変わりません。その結果、レース機たちはパイロンをかすめるように低空を駆け抜けていくことになります。1周の距離はレースのクラスによって異なりますが、最も長いもので約13.6km。この3次元空間でのデッドヒートは、まさにここリノだけでしか見ることのできないものです。

 

レースは約1週間の日程で進められますが、この間の延べ観客数は20万人以上。レースだけではなく、エアロバティックスや軍用機などのデモフライトなどエアショーとしての内容も充実しています。飛行機王国アメリカでは大小様々な航空イベントが年間通じて数多く開催されていますが、これだけの規模と内容を誇るイベントはほんの数えるほどしかありません。またエアレースを主体にしたイベントとして見れば、世界に目を向けても他に並ぶものは見あたりません。名実ともにまさに世界有数の航空イベントということができるでしょう。

リノエアレース コース図

できるだけ低く、パイロンに近く、というのがレースの鉄則のひとつです。しかし、パイロン頂部より低く飛んだりインカットしたりするとペナルティが課せられます。(写真:野亦義久)

リノ・エアレースの象徴ともいうべきパイロン。このパイロンによって示された空中のオーバルコースでレースが行われます。

レース期間中の観客動員数は延べ約20万人。滑走路に隣接するグランドスタンドからはレースコース全体を見渡すことができます。

レースだけでなくエアショーとしても充実した内容を誇るリノ・エアレース。ミリタリー、民間ともに世界トップクラスのフライトを楽しむことができます。

パイロンの高さは約15m。それぞれの根本にはパイロンジャッジが立ち、レース機のパイロンカットなどを監視します。ちなみに、一般客はここには立ち入れません。

レースは全部で6クラス

 

「地上の」モータースポーツはマシンの構成やエンジン形式の違いなどによって様々なクラスに分けられていますが、それはエアレースでも同じです。現在のリノ・エアレースは6クラスに分けられており、それぞれに異なる魅力をアピールしています。

 

最も人気を集めているのが、レシプロエンジンによるプロペラ機であればどんな改造も無制限というアンリミテッドクラス。P-51マスタングなど第二次大戦中の戦闘機からの改造機が中心のこのクラスは、時にレシプロ機としては極限に近い時速800kmものスピードで競われます。まさに史上最速のモータースポーツです。また、ジェット練習機などで競われるジェットクラスも最近はスピードアップしてきており、こちらも時速800km近いスピードでデッドヒートが繰り広げられています。

 

そんな中でトニー比嘉が参戦しているのは小型複葉機によるバイプレーンクラス。全長5mほどとコンパクトで、一見クラシカルにも感じられるこのバイプレーンクラスの機体たちは、しかし高度な操縦技術をパイロットに要求します。時に4000馬力近くにもなるアンリミテッドクラスの機体に較べ、バイプレーンクラスのエンジンは200馬力前後。この限られた馬力を確実に活かして、機体が本来持つ性能を完全に引き出せないと、超低空の狭いコース内で最大速度を維持することはできません。レースはただ真っ直ぐに飛ぶのではなく、最大速度で飛びながらライバルたちと競い、タイトなターンを繰り返します。そのためには、全身のあらゆる感覚を総動員して機体の姿勢と空気の流れを感じ、機体と一体化するように操縦しなければならないのです。ちなみにバイプレーンクラスのコースは全6クラス中最も短い1周約5km。飛行機にとって決して広いとは言えないこの空間で、限られた性能を活かしてスピードを競うとなると当然のようにレースは接近戦になります。ライバルとの機体間隔は時にはわずか数mになることがありますが、これも全クラス中随一の近さ。機体とコースを知り尽くしたパイロットの高い操縦技術に加え、パイロット同士の信頼関係も重要な非常にチャレンジングなクラスがこのバイプレーンクラスなのです。

バイプレーンクラス:トニー比嘉が参戦するクラス。写真のように全クラス中随一の接近戦が魅力です。ちなみに上がトニー比嘉のTango-Tango。

(写真:野亦義久)

T-6クラス:かつては航空自衛隊も使っていたT-6練習機によるワンメイククラスです。スピードは300〜350Km/hほどですが、ワンメイクならではの迫力あるレース展開が人気です。

アンリミテッドクラス:トップクラスの機体は800km/hオーバー。レシプロエンジンであれば改造無制限のクラスです。大戦中のレシプロ戦闘機とその改造レーサーが中心の人気クラスです。

ジェットクラス:出場条件はアフターバーナー無し、主翼後退角15度以下のジェット機。L-39アルバトロスやT-2バックアイなどが700〜800km/hで競います。

スポーツクラス:排気量650キュービックインチ(約10,651cc)までのエンジンを使うキットプレーンのクラス。カーボンなどのハイテク素材を用いた機体でトップクラスは600km/hに迫るスピードを発揮します。

フォーミュラワンクラス:排気量200キュービックインチ(約3,277cc)のエンジンで飛ぶ超小型機のクラス。バイプレーンよりもさらに小型の機体ですが、トップクラスの最高速は400km/hに達します。

レースの進行

毎年9月中旬に開催されるリノ・エアレース。約1週間のイベントは、どのクラスも基本的に、クオリファイ-ヒートレース-ファイナル、という構成になっています。

 

クオリファイは例年、レースウィークの月曜と火曜と水曜に行われます。1機ごとにコースを周回してスピード計測を行い、ヒートレースでのグリッドを決めるのです。バイプレーンクラスの場合、例年20〜30機がエントリーしますが、これが全機同時にレースをするわけではありません。クオリファイ・スピードの速い順に上から「ゴールド」、「シルバー」、「ブロンズ」と3つのグループに分けられて、以後決勝までこのグループでレースを戦います。レースでは様々な駆け引きなどで本来のスピードが出ない場合もありますので、このクオリファイ・スピードがその機体本来の速さを示します。ですからチームもパイロットもレース結果と同様にこのクオリファイ・スピードを重視します。

そして、水曜の午後になるとイベントとしてのレースは本格的な開幕となります。全てのクラスがクオリファイで決められたグリッド順でヒートレースに臨んでいきます。レースは各クラスとも基本的に1日1レース。バイプレーンクラスの場合、水曜から金曜の間に「ゴールド」、「シルバー」、「ブロンズ」の各グループがそれぞれヒート1、ヒート2、と計2レースを戦います。ヒート1の結果でヒート2のグリッドが決まり、ヒート2の結果で最後の決勝レースとなるファイナルのグリッドが決まるのです。滑走路に全機が並んで同時にスタートするバイプレーンクラスでは、このグリッド順が非常に重要ですから、ヒート1もヒート2もどちらも重要なレースということになります。

 

そして最後はいよいよ決勝レースであるファイナルとなります。バイプレーンクラスの最も速いグループである「ゴールド」のファイナルは例年、最終日である日曜の午前に行われ、その結果がその年の最終成績ということになります。

 

ちなみにヒートレースもファイナルもバイプレーンクラスでは基本的に最大8機が6周のレースを行うようになっています。スタートからフィニッシュまで10分ほどですが、全てをグランドスタンドから見ることができますので、短時間に凝縮してレースを楽しむことができます。しかも1日のレースプログラムは朝から夕方までびっしりと組まれており、各レースの間には様々なパフォーマーや軍用機などのフライトが組み込まれています。飛行機好きならば1週間毎日通っても飽きることのない航空イベント、それがリノ・エアレースなのです。

以上、ここまでリノ・エアレースを駆け足で解説してきましたが、リノ・エアレース協会のウェブサイト(英文)で詳しく解説されていますので、そちらもご覧ください。

 

文:神谷直彦     写真:桜井健雄(特記以外)

レースフィニッシュはグランドスタンド正面のホームパイロン。フィニッシュ後は上昇し、他機との位置関係を確認しながら着陸態勢に入ります。離陸から着陸まで約10分ほどですが、密度の高い見応えのあるレースです。

ホワイトボードに記されたバイプレーンクラス各機のクオリファイ結果。左から機体ナンバー、パイロット名、ラップタイム、ラップスピード。この結果でヒートレースのグリッド順が決まります。

ランウェイ上でスタートを待つ各機。バイプレーンクラスは全機がランウェイ上に並び、一斉にエンジンスタートして待機し、フラッグの合図でスタートします。

いよいよスタート。各機一斉に滑走を開始し、離陸したらそのまま左旋回でコースに入ります。基本的に3機、2機、3機の3列でコースに並び、前の列から順にスタートするので、グリッド順はとても重要です。

離陸してすぐに左旋回、8機が一斉にコースに入っていきます。この時のポジショニングも重要。ここから6周のレースが始まります。

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