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フリーフライト
晴れていた空は24日から悪化の一途をたどり、28日の夕方までトニーはスタンバイとなった。フリーフライトは50人まで終っている。トニーは56番目なので、天気が悪いからといってホテルで寝ているわけにはいかない。競技空域から雲がなくなれば、ひとりでもふたりでも進めておかないと、30日までに全ての演技が終了しなくなってしまうからだ。無情にも、低い雲は途切れることなく次から次へとやってくる。この4日間いつでも飛べるように精神状態を保っておくのは至難の技だ。とにかくパイロットは飛べと言われれば5分以内に準備をしなければいけないのだ。
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| 悪天候の中、黙々とイメージトレーニングに励む。イメージトレーニングも人それぞれ。トニーはいたっておとなしい方だ。 |
パイロットは基本的に地平線を基準として垂直や45度を決定し、景色で方向を確認しながら飛ぶのだが、経験のあるパイロットは地平線が見えなくても感覚で飛ぶことができる。それどころか、目をつむってで飛べるのである。しかしトニーにとって地平線を覆う雲や霧は大敵だ。方向を間違えると、修正しない限りそれ以後の演技はすべて0点になってしまう。
トニーはイメージ・トレーニングを続けた。このイメージ・トレーニングが馬鹿にならない。トニーは大開前に実際のトレーニングの5、6倍もイメージ・トレーニングしている。それでまともに飛べなければ、実際に飛べるわけがない。
私たちは祈るような気持ちで地平線を見つめ続けた。
28日午後4時、小雨の降るなか競技が再開された。すっかりくつろいでいたテント村に緊張が走った。トニーの顔が一転して険しくなる。地平線はわずかに見えるが、上空から見えるかどうか飛んでみなければわからない。競技空域上空の雲もトニーにとっては低すぎる。
トニーのフリーの演技は、最終的に決定するまで何回も変更している。そして何と最後に変更したのが、開催日前日である。やむをえない事情があったとはいえ、2回しか練習できなかったことがかなりのプレッシャーとなっているのは確かだ。さらに、フリーの演技は与えられた規則を最大限に生かすため、必然的に規定より難しいものになっている。ブレイクしないで飛べるようになったのは大会直前だという。
とにかく最悪の条件だ。
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| フライト前の緊張した瞬間。見守るデイブも緊張気味。実は私が一番緊張していた。 |
少しずつ強くなっていく雨を振り払うように演技を続ける。次が最後に変更した技だが・・・・・・トニーはブレイクした。競技空域から出るとそのまま高度を上げてゆく。その間トニーは必死で考えていた。
「どっちの方角から入ればいいんだ。次の技は右回りだっけ左回りだっけ。早く戻らないとジャッジが退屈してしまう・・・・」
再突入したトニーはひとつの技を終えると、またブレイクした。
2回のブレイクでかなりの減点である。なぜブレイクしたのか私にはさっぱりわからなかった。
戻ってきたトニーはコックピットを開けると、悔しそうに笑っていた。
「2回ブレイクしてしまった。1回目のは技を一瞬忘れて、2回目のはスナップロールを反対に回ったんだ」
つまり、1回目は技を一瞬忘れたために対応が遅くなり、最低高度を切る可能性があったのでブレイクし、2回目は頭の中が混乱していたので立て直すためにブレイクしたのである。この悪条件のなか、2回のブレイクは非常に冷静な判断の結果だったと言えるだろう。
トニーに限らず経験のあるパイロットでも全く違う技をしたり、技をスキップしたためにブレイクしているのは、この競技が練習量だけではないことを示している。加えて機体の性能、天候、ジャッジの好み、それらの外的な要素で大きく左右される。
79人中78位。しかし、採点表を見た私たちに笑顔が戻った。ブレイク以外は予想をはるかに上回る得点をもらっているのである。だからこそ、私はこの悪天候を恨む。悪天候がトニーに与えた精神的影響は見逃せない。もっといい条件のなかで飛ばせてあげたかった。

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